亡くなった人に「戒名」や「法名」を授ける習慣は、日本以外の国にはない独特の仏教文化と考えられます。本来は生前に授かる戒名を死後に受けるという方式が、いつどうやって始まったのかも分かっていません。
但し、亡くなる直前に僧形になって仏の加護を受けるという考え方は遥か昔からあり、位の高い人達の間で伝統的かつ盛んに行なわれていました。それが平安期の末法思想や十王信仰、地蔵信仰の全盛と重なり、日本独自の葬送儀礼が誕生するに至ったのです。
つまり、日本における戒名は大衆と僧侶が共に生み出してきた文化遺産とも言えるものであり「民衆を救いたい」という仏教における慈悲の思想と「死後の世界への恐怖を解消したい」という大衆の願いとが相互に作用して誕生した文化と言えます。「戒名」は、私達の祖先が千年以上に亘る歴史の中で育んできたものなのです。